百貨店がなりふり構わぬ集客

HANK@森

2009年08月12日 19:37

経営戦略の策定技術とは、つまるところ、比率や割合を決める技術だと思います。

たとえば「選択と集中」という言葉があります。「集中」とは、特定分野の比率や割合を高めることです。

企業戦略の策定とは、さまざまな事業単位の売上構成比率を決めることです。そもそも戦略策定の基本テーマは、経営資源の配分比率を決めることですね。

もう少しブレイクダウンしていくと、たとえば売上高をどのように作るかという考え方にも、それが当てはまります。

売上高とはすなわち、客単価と客数の組み合わせです。組み合わせもまた、比率・割合に通じます。

8月12日付けの日経MJ(流通新聞)に、各百貨店が「『単価より客数』を求め、多様なセールなどでなりふり構わぬ集客策を模索する動きが目を引く」という記事が掲載されています。

たとえば大丸東京店では、「アウトレットセール」として特売を行ない、全館規模で「ブランドの婦人服・雑貨などの在庫品を50~70%値下げ」しています。小田急百貨店新宿店や丸井グループでは下取りを、松屋銀座本店では399円の激安弁当の販売といった取り組みをしています。いずれ
も、何とかして集客するための工夫です。

記事によれば、このような「客数優先に方針転換短期的には成果を上げているようで、2008年度については、「客単価は落ちたが客数を増やし増収を達成」したり、客数を増やした店の落ち込みが少ないなど、「客数が売上高を下支えしたといえそうだ」と説明しています。

いずれにしろ、「客数×客単価=売上高」の方程式は、客数と客単価の組み合わせをどう設定するかがポイントとなります。経営は、その最適解を求めていく作業です。

客単価をさらに分解すれば、「商品単価×お買い上げ点数」となります。どちらをどのように設定するか、この組み合わせも考えていく必要があるでしょう。そこにもまた、最適解があるわけです。

とは言え、記事は、このような施策の「効き目はやがて薄れる」として、「恒常的な安売りは百貨店の体力を奪いかねない面もある」と解説しています。

さらに記事は、「消費者の求める品ぞろえと価格の新たな百貨店モデルを築」くことの必要性を述べています。要は、客数と客単価の組み合わせの安易な変更は、百貨店のアイデンティティの崩壊となる恐れがあるということでしょう。

冒頭で、比率や割合(あるいは組み合わせ)を決めることが戦略だと述べました。そのとおりだとすれば、その変更は、実は非常に由々しいことなのです。百貨店なら、業態転換すら意味します。

根本的な戦略問題なのですから、ドンブリ勘定で売上が稼げればよい、という話ではありません。売上をブレイクダウンし、それを構成する比率・割合にまで、方針を行き届かせる必要があります。

事業を経営すれば、結果として、いろいろな比率・割合を見出すことができます。大切なのは、そこに戦略的意図が反映されているかどうかです。自社内のいたるところにみられる比率・割合について、吟味することをしてみてもよいのではないでしょうか。


【今日の教訓】
あなたの企業の随所で見いだせる比率・割合には、どれだけ戦略的意図が反映されているだろうか。それらの変更は、極めて戦略的な意思決定となるのだから、それぞれしっかりと吟味することをしてみよう。


<参考:日経MJ(流通新聞) 2009.08.12【1面】>


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