「取りこぼし」の痛手は往復ビンタ

HANK@森

2009年06月04日 16:59

不景気にあって、売上を確保することは容易ではありません。どの企業も、そのために知恵を絞っています。たとえば食品スーパーでは、値下げを効果的に行なっています

やはり、値下げするに限るのでしょうか。いや、別の考え方もあるに違いありません。値下げして需要を刺激する前に、取りこぼし、すなわち機会損失を防止することも必要でしょう。

6月4日付けの日経産業新聞に、「オートバックスセブンとイエローハットのカー用品大手2社が、集客策に一段と力を入れている」という記事が掲載されています。新車販売が落ち込み、カー用品の業界にも、その影響があるとのことです。

イエローハットがとっている対策は、「タイヤ売り場を抜本的に見直した」ことです。具体的には、タイヤ売り場の面積を広げ、品揃えを充実しています。

なぜ、タイヤなのでしょうか。イエローハットの社長によれば、「タイヤは確実な需要が見込めるうえ、シェアを拡大することで販売数量も伸ばせる」とのことです。

「確実な需要が見込める」商品は、取りこぼしてはいけません。不景気における売上確保対策として、欠かせない着眼点です。景気によって需要が左右される商品は、不景気時には狙いにくいものです。

一方、この対策の割を食う存在が、ガソリンスタンドです。セルフサービスのガソリンスタンドが増えていることで、「タイヤの販売数量も減っている」。イエローハットは、その需要を確実に取り込むことを狙っているのです。

ガソリンスタンドのセルフ化も値下げ策になりますが、その分、確実に需要が見込めるタイヤの販売を取りこぼしているとすれば、不景気時の売上確保対策としては、何とも皮肉な結果と言えるかも知れません。(もっとも、ガソリンも確実に需要が見込める商品ですが)

記事が取り上げているもう一社、オートバックスの取り組みは、「車検サービスの拡充」です。「店舗に併設する車検工場を増やし、車検のために来店した客にカー用品を売る」のが狙いです。

「車検はタイヤ同様に定期的な需要が見込める」と記事は指摘しています。確実に定期的な需要が見込める商品に着目するという点で、やっていることは違いますが、同じ発想で取り組んでいるのが興味深いです。

販売の機会損失には、単純に商品が購入されない場合と、他社で購入されるケースの両方が考えられます。確実に需要が見込まれる商品の場合、必ずどこかで購入しなければならないので、後者に該当します。

「取りこぼし」という言葉のニュアンスは、後者の意味合いの方が強いでしょう。「取りこぼし」には、「もったいない」という気持ちが込められていますが、まったく購入されないなら、そのような気持ちは起きにくいでしょう。

だとすると、販売における「取りこぼし」は、単純に自社の収益のマイナスになるだけでなく、ライバルにとってのプラス収益になってしまうわけです。その点、「取りこぼし」の発生は、往復ビンタの痛手なのです。

イエローハットの社長が「シェアを拡大すること」に言及したのは、その意味があります。「取りこぼし」については、単なる「売り逃し」以上の深刻さで受け止めなければならないのです。

【今日の教訓】
あなたの企業では、売上確保対策として、どのような手を打っているだろうか。確実に需要の見込める商品については、「取りこぼし」のないようにすることだ。「取りこぼし」は、ライバルを利し、シェアの低下を招く。深刻に受け止めよう。

<参考:日経産業新聞 2009.06.04【14面】>

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