経営を一つの「科学」ととらえると、データの分析は欠かせません。分析の目的は、問題の原因を特定したり、成長の芽を発見したりと、さまざまな観点が考えられます。
異なる事象の相関関係を探ってみるのも面白いです。表計算ソフトを使えば、比較的簡単に算出できます。AとBと相関が高いとなれば、Bで良い結果を得たければ、Aに対して何らかの手を打つべきだという話になります。
私が経験した事例では、たとえば社員の意識調査を行なった際、「この会社にずっと勤める意思はあるか」に対して否定的な回答をした人たちは、「この会社のビジョンは明確か」という設問に対しても否定的に回答していることがわかったりしました。
つまり、ビジョンを明確に示しておかないと、離職率が高くなる、という分析結果です。単純かつ極端な解釈にも見えますが、離職の重要な要因として着目すべき点を浮き彫りにしたという点で、有用でしょう。
12月24日付けの日本経済新聞に、「中小企業の事業承継に関する調査研究」の結果が紹介されています。それによると、事業承継にあたっては、「金融機関や取引先との事前の合意形成が大事であることが分かった」そうです。
これは、調査対象となった承継事例を「成功した」「非成功」に分け、それぞれの回答結果の違いを比較してみたのでしょう。成功要因を特定するのに、よく使われる手法です。
中小企業研究センターが行なったこの調査結果では、「事業承継に際し事前了解を得た関係者」として、「成功企業では26.3%が金融機関、17.8%が取引先と回答。非成功企業ではそれぞれ14.3%と8.9%で10ポイント前後の開きがあった」そうです。
誰を後継者にするかについては、株式でも所有していない限り、金融機関や取引先が口を出す筋合いのものではないかも知れません。しかしもちろん、そういうわけにはいかないですね。
記事は、「中小企業の多くは経営トップが外部交渉を一手に引き受けるため、外部関係者との関係維持が円滑な継承には不可欠と分析している」とコメントしています。
中小企業研究センターのサイトでは、
さらに詳しいレポートが掲載されていて、ポイントとして「基本は早期の取組開始」「幅広い関係者に目を向けて理解を得る」の2つが挙げられています。
早期に取り組みを開始すれば、関係者への「根回し」も抜かりなくできるということでしょう。いずれにしろ、そのような「根回し」は、事業承継に限らず、一般的な仕事においても重要なことです。
コンサルタントとしての私の師匠は、仕事を進める場合に必ず考えるべき3つのポイントがある、と教えてくれました。一つは「プロダクト(成果、結果、目標)」、もう一つは「プロセス(やり方、方法)」、そして「インフルエンス(周囲への影響)」の3つです。
有能に見えてもトラブルばかり起こす人は、インフルエンスを考えていないことが原因でしょう。周囲への影響を考えず、独りよがりで仕事を進めてしまうわけです。
時として、社長・リーダーがそのタイプであったりして、困ることもあります。いわゆる2兆円の定額給付金も、ぶち上げたは良いが、実際にどうするのか、周囲はおおいに迷惑することとなってしまいましたね。
経営でも一般の仕事でも、スムーズに進めるには、どれだけ広い範囲で周囲に目を配ることができるかが成否のカギを握ります。本当に仕事がデキるとは、そのようなことだと思いますよ。
【今日の教訓】
あなたは仕事に取り組むにあたり、周囲へのインフルエンス(影響)をどれだけ考慮に入れ、事前に手を打っているだろうか。面倒なようでも、確実に成果を上げるには必要なことだ。それができないうちは、仕事がデキるつもりになってはいけない。
<参考:日本経済新聞 2008.12.24【13面】>